12月・師走
12月「師走(しわす・しはす)」に入り、日本からは紅葉の美しい風景や初雪の便りが聞こえてきます。バンクーバーではクリスマスのイルミネーションが私達を楽しませてくれていますが、年の瀬の慌ただしさが日に日に増している頃ですね。師走は、師(僧侶)も走り回るほど忙しい月という意味ですが、「年が果てる」から“しはす”となったなど所説様々です。
また1年最後の月であることから、「極月(きわまりつき)」とか、翌月新春を迎えることから「春待月(はるまちづき)」とも呼ばれているようです。
冬至は1年の始まり?
冬至(とうじ)は二十四節気でいう春分と秋分の中間に当たり、日照時間が最も短い日です。冬至は古代中国では1年の始まりとされ、暦の基準ともされてきました。
この日を境に太陽の光が日に日に増し、運が向くとされ、中国では「一陽来復(いちようらいふく)」と言って、おめでたい日とされてきたのをご存知でしょうか。そして冬至には新しい年のスタートして、厄除けや無病息災を祈り、南瓜(かぼちゃ)を食べたり、柚子湯に入るという習慣も生まれてきました。
師走の食べもの
師走の寒い時期には美味しい食べものが豊富にありますね。私の生まれた京都には「京都の底冷え」と言われる京独特の寒さがありますが、そんな時でも湯豆腐や蕪蒸し、柳川鍋などの京料理が身体を芯から温めてくれます。冬ならではの季節の料理と一緒に熱燗やゆず酒などをいただきたいものですね。
杉玉(酒林・さかばやし)
冬の到来とともに、造り酒屋の軒先に青々とした杉の葉で造られた「杉玉」を見かけたことはありませんか?
これは「酒林」とも呼ばれ、杉の葉先を大きなマリのようにしたもので、直径が40cmほどから大きいものでは1mを超えるものもあります。緑の杉玉を軒先に吊すことで、新酒ができたことを知らせるもので、酒造りをしている間じゅうはこの杉玉が軒先に吊るされています。日を追うにつれ杉の葉が枯れ、杉玉が茶色に変色していきますが、これは新酒が熟成していくという意味でもあります。
杉玉の由来は各地で色々とあるようですが、奈良県桜井市の三輪山の麓に酒の神が祀られている大神神社があり、この杜の杉の小枝をいただいて軒先に吊るしたことから始まったといわれています。神様に供えるお酒を「お神酒」といいますが、昔は「みわ」と呼んでいたそうです。またこの神社では毎年新酒醸造の安全を祈願する「酒まつり」も行われており、大神神社とお酒には密接な関係があったのでは考えられています。ちなみに奈良県は日本清酒発祥の地とも言われています。
搾りたて
同じアルコールでもワインは熟成が少しずつ変化していくため、ボジョレーヌーボーのように数か月の新酒の新鮮さを楽しむワインから、何十年もの歳月を経てその熟成度を楽しむワインまで、その楽しみ方は様々です。それに比べ日本酒はその熟成が早く進むため、収穫の秋から1年を通してその美しい四季折々の変化の中、日本酒を楽しむのがその醍醐味と言えるのではないでしょうか。
その年のお米で醸し一番最初に楽しめる「搾りたて」が最初に出回ります。「搾りたて」は酒造りの終りに出来上がった醪(もろみ)をお酒と粕に分けた直後のお酒で、出荷前に行なう火入れ処理を一度もしないものを指します。
「搾りたて」はできたてのフレッシュで爽快な味わいが特徴で、中には炭酸を含んだものもあり、要冷蔵で管理が難しいとされていますが、流通の進歩と技術の発展で広く楽しめるようになってきました。
蔵人は凍えるような師走の夜でも、息を凝らし真剣にお酒に向き合う。そして精魂込めて醸したお酒を神に奉げるのです。では寒い季節に一献献上!
(一献献上はカナダ・バンクーバー情報誌Oops!うっぷすで連載中です。)