水無月(みなずき)『梅雨入り』
6月・水無月は、二十四節気では小満から芒種の候「万物、盈満(えいまん)すれば草木枝葉繁る」と言われ、草木が活気づき、野山の緑が深まる季節です。バンクーバーでは日も長くなり、天候も安定し晴天の爽やかな季節の到来です。
日本では初夏のこの季節、梅雨入りの時期と重なり、蒸し暑さで日増しに過ごし難くなる頃ですね。梅雨時の晴れ間、裏庭の紫陽花が美しく手水鉢に映り、ほんの少しだけ爽やかさを感じられる時もあるのでしょうか。
梅雨時を楽しむための知恵と工夫
私の生まれ育った京都・北野の界隈は、苔むした古いお寺や昔ながらの古民家が軒を連ねています。そして丁度この季節、梅雨の切れ間に「建具替え」という住まいを夏向きし設(しつら)える風習があります。
京都はこの時期からあと1ヶ月で祇園祭りです。そして8月の大文字送り火と地蔵盆ごろまでを「値打ちのある暑さ」と気取った言い方で表します。京都は盆地で蒸し暑く、夏は大変過ごしにくいですが、「涼をとる」知恵・工夫をして季節を感じ、愉しむための住まいの「衣替え」をするのです。
日本酒を美味しく飲むための知恵と工夫
コロナ感染拡大ですっかり在宅時間が増えました。時にはストレスにもなる「お家時間」をどう快適に過ごせば良いのでしょうか?
今までも「一献献上」で、日本には美しい四季があり、その様々な季節に旬な食材があり、夫々の季節を愉しむ「工夫・ヒント」が普段の生活の中にあることをお伝えしてきました。それは構えて難しいことではなく、日々の生活の「もの・こと」のひとつひとつを大切にし、季節に素直に向き合う心根なのかなと思います。
そこで今回は、食事の時間を快適に過ごすヒントとして、日本酒を美味しく飲むための「知恵・工夫」をお話してみたいと思います。
日本酒の「賞味期限」はない?
日本では食品表示法に基づき、食品や飲料については「賞味期限」の記載が求められています。しかしアルコール飲料は殺菌作用で長期保存できるため、賞味期限の表示義務がありません。皆さんはこれを聞いて「あれ?!ラベルに賞味期限が記載されてるじゃないか?」と思われるかもしれませんが、これは日本酒の「瓶詰め」をした「製造年月」の表示です。尚、食品表示法では日本酒に限らず、酒類全般の賞味期限表示の必要が無く、ワインやウイスキー、焼酎なども同様の理由で賞味期限の表示義務がないのです。従ってお酒には一般的に「賞味期限」はないと言えます。
とは言うものの、実際にお酒は時間の経過により、味わいが劣化することは間違いありません。では時間の経過の中でどのように日本酒を愉しく味わえば良いのか、そのポイントを整理してお話します。
- 日本酒の保管場所
アルコール飲料全般に云えることですが、日本酒の品質の低下につながる原因として「光」「温度」「酸化」の3つが挙げられます。先ず「光」は、直射日光に限らず室内の照明も、お酒の味・色・香に影響を与えます。また「温度」は高いだけでなく、急激な温度変化も酒質の劣化につながります。保管場所としては、キッチンの火元や冷蔵庫周辺、風通しの悪い場所は避け、冷蔵庫でなくても構いませんが、温度変化の少ない場所に保管しましょう。また開栓前は箱などに収納し、日光や照明が直接当たらないようにして下さい。
- 開栓前と後の保存の違い
開栓前は、前述のように保管すれば、製造から1年以上経過しても美味しく飲むことができます。しかし開栓後はしっかりと栓をして、冷蔵庫に保存しできるだけ早く飲むことをお薦めします。お酒は一旦、空気に触れると劣化が一気に進み、味が大きく変化していきます。また日本酒は経年劣化に伴い、色が少しずつ付き、微量ですが「澱(おり)」が瓶底に沈殿していきます。これは時間の経過で成分が固まったものですが、飲んでも問題はありません。またお酒の種類によっても違いますが、香りも変化します。
- 日本酒の種類による保存方法の違い
日本酒は、その種類によって保管方法の違いを理解しておくと更に美味しく愉しめます。
生酒と火入れ:
海外市場ではその温度管理の難しさからあまり見かけませんが、「生酒」は必ず冷蔵庫で保管しましょう。「火入れ(殺菌と発酵防止)」は、品質維持のため、通常は2回行いますが、フレッシュ感を出すために「火入れ」を1回しか行わない「生貯蔵酒」、「生詰め酒」といった種類もあります。火入れを2回行なっている一般的な日本酒は、冷蔵庫ではなくても、直射日光を避けた冷暗所のような場所に保管してもその品質は保てます。
吟醸酒と純米酒:
フルーティーな繊細な香りが特徴の「吟醸酒」は、冷蔵庫で保管することをおすすめします。「純米酒」は火入れをしているので、直射日光を避けた冷暗所のような場所に保管してくださ。また、時間の経過に伴い熟成し味わいのあるお酒に変化していきます。
写真提供:津軽びいどろ
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時間の経過を愉しむ飲み方
皆さんは、「角が取れている」や「つやがある」という日本酒の味わいを表現する言葉を聞いたことはありませんか? これは一般的に、春に絞ったお酒を温度管理をした蔵内で貯蔵し、熟成させた日本酒のことをこの様な言葉で表現します。
秋口に出荷する「ひやおろし」や「秋あがり」を指しますが、ひと夏、蔵でじっくり寝かせ熟成させることで、丸みと深みのある美味しい日本酒ができるのです。これらの日本酒は、秋の肌寒い季節に燗酒で呑むと、本当に美味しくいただけます。
今年の夏も、コロナ禍でストレスの多い生活が強いら、心の余裕も失いがちになります。健康な生活を送る基本でもある「食事」の時間を少しゆっくりと取り、そしてお気に入りの日本酒を料理に添えてみて下さい。季節の美しさや日々の生活を愉しむ「心の余裕」につながるかもしれません。大切な人との食卓で会話も弾み、蔵人が心を込めて醸したお酒が優しく香りたちます。では皆さんの健康を祈って、一献献上!
(一献献上はカナダ・バンクーバー情報誌Oops!うっぷすで連載中です。)