3月・弥生(やよい)

3月・弥生(やよい)に入ると、バンクーバーでも日一日と日も長くなってきます。3月は春分の日(3月21日)を過ぎると、夜の長い冬から日が長くなる頃で、徐々に春めいてくる季節ですね。春の季節を感じるのは温度や天候ばかりでなく、その季節に咲く美しい花なども春を感じる風物詩と言えます。2月に梅が香り、3月には桃の花が生き物を目覚めさせ、そして4月に桜前線が北上し、各地で美しい花が私たちの目を楽しませてくれます。3月が桃月、花月とも呼ばれるゆえんです。

「桃の節句」とは?

皆さんは3月と言えば、子供の頃から馴染みのある「桃の節句(3月3日)」を思い出すのではないでしょうか。

元来節句とは、日本の暦上、伝統的に行われてきた年中行事を行う季節の節目を意味するそうです。

この節句は、お正月から始まり1月7日・人日(七草)の節句、3月3日・上巳(桃)の節句、5月5日・端午(菖蒲)の節句、7月7日・七夕(笹)の節句、9月9日・重陽(菊)の節句があり、1年で5つあるので五節句と言われています。

古来我々はこの5つの季節の節目で、御神酒を供えて五穀豊穣、無病息災、子孫繁栄を祈ったのです。3月の桃の節句は、1年の言わば春を迎える季節の節目になる訳です。

農業の延長にあった酒造り

3月に入り、一日一日と暖かくなってくると酒造りも終わりに近づいてきます。

元来日本酒を醸す蔵人たちにとって、晩秋に収穫を終えた農夫達が春までの農閑期にする仕事でした。

杜氏を頭に農夫達は集団で酒蔵に赴き、その年に収穫された米で、精魂込めて日本酒を醸す仕事に専念するのです。しかし、醸造技術が進歩してきたことで、時代と共にその酒造りの仕事の形態だけでなく、日本酒の季節性が無くなり、日本酒の種類そのものも多様化してきたと言えます。

近代の日本酒の発展

日本酒は昔より米、米こうじ、水だけで醸されてきました。醸造用アルコールなどの添加物を一切加えない、いわゆる「純米酒」です。

この「純米酒」こそ ”ホンモノの酒 ”とか”混ぜ物のない”お酒として、重宝されてきた傾向がありました。一方「増醸酒(ぞうじょうしゅ)」は、米、米こうじ、水以外に醸造用アルコールや醸造用糖類の添加物を加えたものを指しますが、戦後物資が不足した時、増量を目的に「三倍増醸酒」「アル添」などと呼ばれて、非常に悪いイメージが定着しました。

しかしアルコール添加は、増量やコストダウンだけが目的ではありません。特定名称酒などでいうアルコール添加には全く違う理由があるのです。それは、

① 劣化を防ぐ
② 端麗辛口にする
③香りを引き出す
④酵母の発酵をストップさせる(醸造のコントロール)

これらは特定銘酒など高質な日本酒を醸造する時、日本酒の酒質に関わる重要なポイントになるのです。また特定名称酒のアルコール添加量は白米重量の10%が上限と規定されています。

Sake Masu Sakura Ginjo

「吟醸酒」の誕生

「清酒(せいしゅ)」の発祥の歴史は諸説あり意見の分かれるところですが、菩提泉に代表される「僧坊酒(そうぼうしゅ)」と呼ばれるお酒が平安時代から江戸時代頃にかけて、寺院で醸造されていたのがお酒の基だと言われています。

元々は「清酒(すみさけ)」と称され、寺院の僧侶はお酒を醸すことで経済的な豊かさを手に入れ、宗教的且つ政治的な繁栄の礎を築いたと言われています。

これに対して「吟醸酒」は精米歩合60%以下で低温醸造された香りの高い特定名称酒です。日本酒を飲まれる方なら一度は聞いたことのあるお酒の名称だと思いますが、歴史的には江戸後期に「吟造」「吟製」という言葉がその最初だと言われ、実際に「吟醸」という言葉が使われるようになったのは明治後期で、吟醸酒は明治時代から開催されていた清酒品評会で、全国の酒蔵がその技術を競い合って生まれた”新しい日本酒”なのです。現在この「吟醸酒」は、その豊かな芳香と飲み易さで性別や世代を超えて広く愛される日本酒として認知されるようになってきました。

日本酒は、長い時間と季節を経て、蔵人たちの汗と叡智の結晶で醸されてきた日本人が誇れる文化なのです。素晴らしい日本酒に一献献上!

(一献献上はカナダ・バンクーバー情報誌Oops!うっぷすで連載中です。)