7月・文月(ふづき)

 「文月や  六日も常の 夜には似ず」とは、芭蕉が越後路を歩いた時、七夕前夜の7月6日、常の夜とは違い、何となく心が弾むような感慨にふけった夏の夜を詠った俳句です。私などは仕事終わり、少し気怠い薄暮れの夜に冷酒をゆっくりと飲みたい気分ですが、こんな夏の夜、夜空に広がる天の川を眺めながら、なんとなく散歩したいと思うこともあるのではないでしょうか。皆さんはどんな夏の夜長をお過ごしですか。

 七月は、文月(ふづき)。別称、穂含月(ほふみづき)、含月(ふくみづき)など色々と呼び名はあるようですが、稲穂が含む月などから転じて文月(ふづき/ふみづき)になったと言われています。昼が最も長い夏至(2018年6月22日)も過ぎ、バンクーバーは素晴らしい季節がやって来ました。

「土用の丑の日」

 皆さんは「土用の入り」というと、厳しい夏バテに備えて”鰻(うなぎ)”を連想されると思いますが、そもそも「土用の入り」ってなんでしょうか?

 「土用の日」とは二十四節気だけでは表わせない雑節からくる季節の節目をさす言葉で、年に4回、各季節(立春、立夏、立秋、立冬)の前の18日間のことを意味します。

 一般に我々が「夏の土用の入り」と呼んでいるのは、立秋(2018年8月7日)の前の18日間(2018年7月20日~8月6日)を言い、「丑(うし)の日」は土用の間、十二支の丑(うし)の日を表します。「土用の入り」とはつまり、この18日間の初日(2018年7月20日)の事を意味し、この時期が一年で最も暑さの厳しい季節が始まるので、夏バテに鰻を食べる習慣が始まったという訳です。

土用の丑の日の鰻

 鰻はビタミン、亜鉛、そしてミネラルなど栄養価が豊富で、夏バテに良いというのは何となく理解できますが、ではいつ頃から「土用の丑の日」に鰻を食べる習慣が始まったのでしょうか?

 これは江戸時代の学者でエレキテルの復元で知られる平賀源内が、夏場、繁盛しない鰻屋から相談を受けて、宣伝した言わばキャッチコピーから始まったそうです。古来、精のつく食べ物として知られていた「鰻」を夏バテに良いと考えた平賀源内が「土用の丑の日はウナギを食べよう!」と宣伝した訳です。差詰め、流行のコピーライターってところでしょうか。

 日本人は、古来それぞれの季節と食材を大切に感じ、感謝しつつ「季節の食材」を食して生活してきました。土用の丑の日に鰻を食べるのは、平賀源内がうまく宣伝したからだけではなく、日本人の昔からの知恵として、各季節で新鮮で旬な食材は栄養価も高く、健康に良いという知恵を持っていたんだと私は思います。

「鰻」と「日本酒」

鰻の蒲焼き

 夏バテに鰻と言えば、やはり蒲焼きでしょうか。鰻の脂と身の汁が混じった香ばしく深みのあるタレで味わう蒲焼きには、お米本来の旨味やコクが立っている純米酒や酸度のある生酛造り系の日本酒が合います。味の濃いタレで頂く蒲焼きには、日本酒も切れがあり、コクのある日本酒との相性が合うという訳です。純米酒は少し温めて燗酒でいただくのも良いでしょう。

鰻の肝焼き

 日本酒のお摘みとして、肝焼きも併せて食べたい鰻料理です。香りの良い山椒を添えていただく少し苦味のある肝焼きには、冷やした吟醸酒との相性が最高です。最近人気の発泡酒系なども鰻と相性が良いと思います。味の濃い鰻料理と発泡酒の炭酸ガスが心地よく喉を通ります。

 美味しく日本酒を飲むコツは、燗酒は温め過ぎず、冷酒はクーラー(ワインなどを冷やすアイスを入れておくバケツ)に入れ、冷やしてください。温かいものは”温かく”、冷たいものは”冷たく”いただいて下さい。また”和らぎ水”も忘れずに。

 これからの厳しい夏を楽しむためにも、元気で美味しいモノをしっかりと食べて、日本酒を美味しく飲みましょう!それでは皆さんの元気に一献献上!

(一献献上はカナダ・バンクーバー情報誌Oops!うっぷすで連載中です。)

Sake Article Ikkon kenjyo