2019年・新年あけましておめでとうございます
2016年8月からスタートした日本酒コラム記事『一献献上』も今回で29回を数え、3回目のお正月を迎えることになりました。読者の皆様に厚く御礼を申し上げます。
日本の伝統文化ともいえる日本酒を少しでもカナダの皆さんに楽しんでいただきたいという想いから書き始めました。今年も皆さんに日本酒を楽しんで頂けるようなヒントになればと心より願っています。
1月・睦月
「正月」は睦月、嘉月、初春とも呼ばれるおめでたい年の初めの月です。家族が集まり、仲良く睦び合う月、つまり睦び月が「睦月(むつき)」というわけです。日本は古来、その年の新米で造った新酒と、若水(元旦に初めて汲む水、初水)で清めた食物を神棚に供え、神様と共に新しい始まりをお祝いします。
寒造り
「寒造り」はVol.17の記事でも書きましたが、二十四節気の「小寒(しょうかん)」の最初の日(寒の入り)から「大寒(だいかん)」最後の日(翌日が立春)までの約30日程が一年を通じて最も寒いと言われています。この冬の最も寒い時期を中心とした酒造りを「寒造り」と言う訳です。またこの12月~2月の間に醸される日本酒を「寒酒」とも呼ばれてきました。
四季醸造
寒造りに反して一年(四季)を通じて酒造りを行うことを「四季醸造」と言います。現代では蔵内の温度管理技術の進歩から、四季を通じても変わらない品質が確保できるため、大手酒蔵を中心に広がってきた酒造りの方法です。
年中変わらず美味しいお酒が飲めるのは我々消費者に取ってはありがたいことですが、季節の旬で特徴のある日本酒が飲めなくなるのは、季節を寿ぐ伝統文化でもある日本酒の楽しみ方ができなくなって少し悲しい気もしますね。
直心の交わり
茶人・千利休が考案したとされる茶室の入口「躙口(にじりぐち)」。茶室に入るには、頭を低くし躙口を潜らなければ中に入れません。先ず自分を一度捨て、ありのままの姿で人と向き合いなさいと問うているのです。それが利休が狭い茶室で追及した「直心の交わり」です。
直心とは仏語で正直な心を意味しますが、利休は茶の湯で客を迎える心根として礼儀正しく、素直な心でもてなしさいというものです。身分に関係なく心を寄せ合い、なごやかに睦むという、人として大切な徳目です。まさしく「和の心」と言え、新たな年の始まり、睦月に「直心の交わり」で人をお迎えする心の余裕を持ちたいものですね。
新しい年を迎えて
「あらたまの 年たちかへる 朝より 待たるるものは鶯の声」、素性法師が正月の新たな心持ちを詠んだ歌です。師走の慌ただしさから、除夜の鐘に向かい高まっていた世間の物音は、元旦の朝を迎えて申し合わせたように静まりかえっている。この清らかな元旦の朝に鶯の鳴き声が聞ければ、めでたさもひとしおに感じられるだろうという意味です。
平成最後のお正月を迎え、元旦に初めて汲んだ若水と御新酒を神棚に供え、神様と共に新しい始まりをお祝いします。
深々と雪降る大晦日の夜、蔵人たちは静かに日本酒の産声に耳を澄まし元旦の朝を待ちます。人肌に芳香立った燗酒を時間を掛けて酌み交わし、季節の恵みを神に感謝します。そして元日から酒造りは続くのです。新しい年が皆さんにとって素晴らしい年になりますよう心よりお祈りしつつ、一献献上!
(一献献上はカナダ・バンクーバー情報誌Oops!うっぷすで連載中です。)