6月・水無月(みなづき)

6月は旧暦で云えば晩夏、夏(旧暦では4〜6月が夏)、の終わりに当たりますが、日本各地では、そろそろ梅雨入りを迎える頃でしょうか。ここバンクーバーでは初夏の透き通った青空が美しい季節になってきましたね。

6月は別名 「水無月(みなづき)」とも呼ばれていますが、これは「水が無い」という意味ではなく、雨の季節とも重なり、「無(な)」が助詞「の」を表し、「水の月」という意味になります。水田に元気な稲がその背をぐんぐんと伸ばし、田園の緑が鮮やかに広がってくる季節です。

京都の和菓子「水無月」

京都に「水無月(みなづき)」という和菓子があります。葛(くず)の上に小豆をのせた三角形のもちもちした食感の京菓子です。私も子供の頃は大好物で、6月になるとよく食べたのを記憶しています。

この和菓子を6月に食べる由来は、平安の頃から6月1日に「氷の節句」と呼ばれる行事が宮中で行われていたそうですが、宮廷の皇族たちは冬に積もった雪を貯え、自然の冷蔵庫ともいえる「氷室」から切り出した氷を食して一年の残り半分を無病息災で居られるようにと祈念したのです。

これに反して庶民は氷など高価で手に入れることができなかったので、氷の形に似せた三角形のお菓子・水無月(みなづき)を食べて暑い夏を乗り越えようと考えたのです。何ともユーモア溢れる発想だと思いませんか?

「冷や酒」は常温のお酒?

「お冷や下さい。」とお店で言えば、多分「冷たいお水」がテーブルに運ばれて来るでしょう。日本酒の場合は「冷や酒(ひやざけ)」を下さいと言うと、冷蔵庫で冷やした日本酒か、氷を入れた日本酒(オンザロック)が出てくるのではないでしょうか。

前述の通り、一般庶民には昔から氷や冷蔵庫で飲み物を冷やしたり、夏の暑さを冷たい飲み物で凌(しの)ごうとしていた訳ではありません。「涼を取る」という美しい言葉が日本語にはありますが、これは自然のままで暑さを凌ぐ、すずむという意味です。

日本酒は冷蔵庫の無い時代から飲み物で、常温で飲むか、温めて飲むかのどちらかでした。つまり「冷や酒」と言えば、『常温』の日本酒を意味していており、これに反して「冷酒(れいしゅ)」は、冷蔵庫などで冷やした日本酒を指します。

私は自宅で普段から飲むお酒は「冷や酒」つまり「常温」のままで飲むことがよくあります。それは日本酒の酸度や旨味を感じやすく、お酒の温度が上昇するにつれ、甘みを感じやすくなるからです。

日本酒本来の持つ素材の良さをじっくりと楽しめ、季節を感じる事ができる美味しい食材とも非常に相性よくいただけるからです。

sake Masu wooden Cup

「特定名称酒」vs. 「普通酒」

今回は、普段ご自宅で楽しめる言わば “普段着” のお酒ともいえる「普通酒」についてお話したいと思います。

「普通酒」吟醸酒純米酒本醸造酒など「特定名称酒」として分類されない日本酒のことですが、この両者の分類は「精米歩合が規定(70%)以下」、「添加する醸造アルコールの量10%以下」、「農産物検査法に従い3等以上に格付けされた米の使用」、「麹米使用量が15%以上」などの条件で分類されています。

普通酒は、品質が劣っているとか、美味しくない酒というわけではありません。酒造によっては、精米歩合が60〜70%の酒米を使用しているにも関わらず、「普通酒」と呼んでいたり、有名な酒米100%を使用しているにも関わらず、「普通酒」と呼んでいたりと、大変美味しい普通酒が数多くあります。

国内市場のシェアの約7割がこの「普通酒」で占められており、各酒造メーカーは普段から気軽に飲める美味しい日本酒の醸造に凌ぎを削って開発しようとしているのです。

手軽に買える安価な日本酒の中にも美味しい日本酒はたくさんあります。自分に合った ”普段着” の美味しい日本酒を是非見つけてみて下さい。

日本酒は、特別な時と場所だけで頂く飲み物ではありません。人々の普段の暮らしの中で、時間を楽しみ、人々が集い、笑顔にする日本の伝統ある飲み物です。楽しみ方も様々です。では皆さんの笑顔に一献献上!

(一献献上はカナダ・バンクーバー情報誌Oops!うっぷすで連載中です。)